なかなか遺産の4つの特徴1.形状と由来なかなか遺産の定義は、ちょっと読んだだけではわかりにくいので、解説が必要です。全体は、1.形状と由来、2.価値、3.恩恵、4.未来への可能性、の4つについて述べています。 まず、「どこにもない特異性をもち、一度見ただけでくすっと笑っちゃうことから、 国の重要文化財や世界遺産に認定はされないものの」の部分は、 その形状や出自について述べたものです。 ある種の建造物は必要に迫られて、成熟しぬまに、突如、誕生せざるをえませんでした。 そのやや「拙速」の出自が、形状的な面白さを生み出すことになります。 全体の合理性よりも、ある必要に対する部分が突出してしまうわけです。 それ故、成熟した普遍的な価値を尊ぶ世界遺産や国の制限の多い重要文化財には 到底指定されることはないのです。 2.価値「でも」、とこの定義は、ここで一息おいて、その価値を定義します。それが二つ目の部分、「生真面目に、地域やそれを 越えた地球上の環境やひとや社会やいろんなものを結びつけ、 ひとびとに多様な恩恵をもたらしていることから、 なかなか〜!と見るひとびとを唸らせ」る、というくだりです。 建造物は、それだけで価値があるわけではありませんし、それだけで存在しているわけでもありません。 建築学を専門としている人間は得てして、物理的な構造物や建物の内的な機能のみに目がいき、 建物は孤立していても存在価値があると誤解してしまいやすいのです。 だが、この「なかなか遺産」は、そうではありません。 誕生までの経緯、作られた後、多くのひとびとに利用され、観察され、記憶された結果、 景観、自然環境、社会、いろいろなものを強く結びつける紐帯というような 多様な役割を果たすことになり、それがこのなかなか遺産の価値であることをここで謳っています。 3. なかなか遺産の恩恵そのような価値のあるなかなか遺産から、私たちはどんな恩恵を得ることができるでしょうか?定義では「ひとびとに多様な恩恵をもたらしていることから」とありますが、 生物多様性が確保された生態系が人間にもたらす利益、 すわなち、生態系サービスにならって、ここに示しておきましょう。
4. 未来への可能性さて、定義の最後の部分は、時間軸での意味を提示しています。つまり、「建造物のみならず、そのつながり全体を劣化させずに次世代に継承させたいと 自然に思えてしまう共有の財産」という部分です。 世界遺産についていえば、一時(いっとき)華々しく注目を浴び、そのため却って、 建物やその社会を疲弊させる副作用が生じています。なかなか遺産はそうではありません。 むしろ、緩やかではあるけれど、その価値が少しずつ認められ、 次世代にわたって持続的に地域やさらに多くのひとびとがその恩恵を受ける、 という現今のいい方であれば、この遺産がサステイナブルな性質を持つことへの注目なのです。 そして、これを「共有の財産」つまり、コモンズとして保全していこう!とする期待も この定義の中に盛り込まれています。 ![]() |
||